【基本情報技術者試験】バックアップシステムの設計と運用|RPO/RTOからサイト構成まで徹底解説
データ損失のリスクから企業の重要な情報資産を守るバックアップシステム。
基本情報技術者試験では、システム構成やバックアップ方式、災害対策など幅広い観点から出題されます。
本記事では、試験でよく問われるバックアップシステムの基礎知識から実践的な設計・運用方法まで、具体例を交えて徹底解説します。
バックアップの基礎知識と重要性
なぜバックアップが必要なのか
情報システムにおいて、データは最も重要な資産の一つです。しかし、以下のような様々な要因によってデータが失われる可能性があります:
- ハードウェアの故障(HDDのクラッシュなど)
- ソフトウェアのエラー(システムクラッシュ、バグによる誤動作)
- 人的ミス(誤操作、誤削除)
- 災害(地震、火災、水害)
- サイバー攻撃(ランサムウェア、マルウェア)
近年では特に、ランサムウェアによる攻撃が増加しており、バックアップの重要性は一層高まっています。
バックアップの基本的な考え方
バックアップとは、重要なデータを別の場所に複製し、元のデータが失われた場合に復元できるようにしておくことです。基本情報技術者試験では、特に以下の観点からの理解が重要です:
- データの重要度に応じたバックアップ方式の選択
- コストと効果のバランス
- 復旧時間の考慮
- セキュリティ対策
試験では、これらの要素を総合的に考慮した上で、適切なバックアップ方式やシステム構成を選択する問題が出題されます。
バックアップの種類と特徴
フルバックアップ
すべてのデータをバックアップする方式です。基本情報技術者試験では、最も基本的なバックアップ方式として必ず押さえておく必要があります。
- メリット:
- 最も確実な方法
- リストア作業が単純
- データの整合性が保ちやすい
- デメリット:
- 時間と容量を多く消費する
- ネットワーク負荷が高い
- コストが比較的高い
- 用途:
- 週次バックアップなど、定期的な完全バックアップ
- システム全体の保全が必要な場合
- 重要度の高いデータの保護
差分バックアップ
前回のフルバックアップ以降に変更されたデータのみをバックアップします。試験では、フルバックアップとの組み合わせについての理解が問われます。
- メリット:
- フルバックアップより時間と容量を節約できる
- 日次バックアップに適している
- リストア時間が増分バックアップより短い
- デメリット:
- 復元時にフルバックアップと差分バックアップの両方が必要
- 時間とともにバックアップサイズが大きくなる
- 用途:
- 日次バックアップなど、頻繁なバックアップ
- 中規模システムの運用
- 比較的早い復旧が必要な場合
増分バックアップ
前回のバックアップ以降に変更されたデータのみをバックアップします。試験では、リストア手順の複雑さと効率性のトレードオフについての理解が重要です。
- メリット:
- 最も時間と容量を節約できる
- バックアップ処理が最も高速
- ネットワーク負荷を最小限に抑えられる
- デメリット:
- 復元時に全ての増分バックアップが必要
- リストア手順が最も複雑
- データの整合性確認が難しい
- 用途:
- リアルタイムに近いバックアップが必要な場合
- 変更の多いシステム
- ネットワーク帯域に制限がある環境
バックアップシステムの設計と構成要素
バックアップ対象の選定
システムの重要度と業務への影響度を考慮して、適切なバックアップ対象を選定する必要があります:
- オペレーティングシステム
- システムファイル
- レジストリ
- ドライバー類
- アプリケーション
- プログラムファイル
- 設定ファイル
- ログファイル
- データベース
- データファイル
- トランザクションログ
- 設定ファイル
- ユーザーデータ
- 文書ファイル
- メールデータ
- 作業フォルダ
- 設定ファイル
- ネットワーク設定
- セキュリティ設定
- ユーザー設定
RPOとRTOの設定
RPO(Recovery Point Objective:復旧時点目標)とRTO(Recovery Time Objective:復旧時間目標)は、バックアップシステム設計の重要な指標です。基本情報技術者試験では、これらの概念の理解と適切な設定方法が問われます。
- RPOの考え方:
- データ損失を許容できる最大時間
- 例:RPOが1時間の場合、最大1時間分のデータ損失を許容
- システムの重要度に応じて設定
- データの更新頻度を考慮する必要がある
- RTOの考え方:
- システム復旧に許容される最大時間
- 例:RTOが2時間の場合、2時間以内にシステムを復旧
- 業務への影響度から決定
- バックアップ方式とサイト構成に直接影響
システムの二重化設計
システムの可用性を高めるための重要な方式として、試験では以下の2種類の二重化設計についての理解が求められます。
- デュアルシステム
- 2つのシステムで同時に処理
- 結果を照合して信頼性を確保
- 障害時は片方のシステムで継続
- 高コストだが信頼性は最も高い
- ミッションクリティカルな業務に適用
- デュープレックスシステム
- 現用系と待機系の2システム構成
- 障害時は待機系に切り替え
- コストを抑えつつ可用性を確保
- 切り替え時に若干の停止時間が発生
- 一般的な基幹システムで採用
バックアップサイトの種類と選択
ホットサイト
- 特徴:
- 常時稼働状態を維持
- データも定期的に同期
- 即時切り替え可能
- 運用要員も常駐
- メリット:
- 災害時に即座に切り替え可能
- データ損失を最小限に抑制
- デメリット:
- コストは最も高い
- 運用管理の負担が大きい
- 適用対象:
- 重要な基幹システム
- 金融系システム
- 24時間365日稼働が求められるシステム
ウォームサイト
- 特徴:
- 基本的な設備は整備済み
- システムは定期的に更新
- 追加設定で稼働可能
- メリット:
- ホットサイトより低コスト
- 比較的短時間での復旧が可能
- デメリット:
- 切り替えに時間が必要
- 運用手順の整備が重要
- 適用対象:
- 準重要システム
- 数時間の停止が許容されるシステム
コールドサイト
- 特徴:
- 最小限の設備のみ用意
- 電源や空調などのインフラのみ
- 復旧に時間が必要
- メリット:
- 最もコストが低い
- 必要最小限の投資で構築可能
- デメリット:
- 復旧に最も時間がかかる
- 事前の準備と手順が重要
- 適用対象:
- 一般業務システム
- 数日の停止が許容されるシステム
バックアップ媒体の選択と特徴
磁気テープ
- メリット:
- 大容量データの保存が可能
- 単位容量あたりのコストが低い
- オフライン保管に適している
- 長期保存が可能
- デメリット:
- アクセス速度が遅い(シーケンシャルアクセス)
- 耐久性が比較的低い
- バックアップ/リストアに時間がかかる
- 用途:
- 長期保管用バックアップ
- アーカイブデータの保存
- 大容量データの定期バックアップ
ハードディスク
- メリット:
- 高速なアクセスが可能
- ランダムアクセスに対応
- 高い信頼性
- 自動バックアップの実装が容易
- デメリット:
- 比較的高コスト
- 物理的な衝撃に弱い
- 容量あたりのコストが高い
- 用途:
- 日常的なバックアップ
- クイックリカバリが必要なシステム
- オンラインバックアップ
光ディスク
- メリット:
- 持ち運びやすい
- 長期保存に適している
- 比較的安価
- 読み取り専用媒体として利用可能
- デメリット:
- 容量が限られている
- 書き込み速度が遅い
- 大量のデータ保存には不向き
- 用途:
- 重要文書の保管
- 配布用データの保存
- 小規模システムのバックアップ
クラウドストレージ
- メリット:
- 柔軟な容量拡張が可能
- 場所を問わないアクセス
- 自動バックアップ機能
- 複数拠点でのデータ保護
- デメリット:
- セキュリティ対策が必要
- インターネット接続に依存
- 帯域制限の影響を受ける
- 用途:
- 分散バックアップ
- モバイルデバイスのバックアップ
- 中小規模システムの災害対策
練習問題で理解を深めよう
- あるシステムでは、毎週日曜日にフルバックアップを行い、平日は差分バックアップを行っています。木曜日にシステム障害が発生した場合、データを復元するために必要なバックアップは何か、順序とともに答えなさい。
-
解答:
1. 直前の日曜日のフルバックアップ
2. 木曜日の差分バックアップ
解説:
差分バックアップは前回のフルバックアップからの変更分をすべて含むため、フルバックアップと最新の差分バックアップのみで復元が可能です。増分バックアップの場合と異なり、月曜日から水曜日のバックアップは必要ありません。これは、基本情報技術者試験でよく問われる重要なポイントです。
- RPOが30分、RTOが2時間のシステムに適したバックアップ方式とバックアップサイトの組み合わせを選択し、その理由を説明しなさい。
-
解答:
– バックアップ方式:増分バックアップ
– バックアップサイト:ホットサイト
解説:
RPOが30分と短いため、頻繁なバックアップが必要です。増分バックアップは最も効率的に短間隔でのバックアップを実現できます。また、RTOが2時間と厳しいため、即時切り替え可能なホットサイトが適しています。基本情報技術者試験では、このようなRPO/RTOの要件から適切なシステム構成を選択する問題がよく出題されます。
- 基幹系データベースのバックアップシステムを設計する際の考慮点を3つ挙げ、それぞれについて具体的な対応方法を説明しなさい。
-
解答:
1. データの整合性確保
– オンラインバックアップ機能の利用
– トランザクションログの取得
– チェックポイントの活用
2. 復旧時間の最小化
– ストレージの二重化
– ホットスタンバイ構成の採用
– 高速なバックアップ媒体の使用
3. セキュリティ対策
– バックアップデータの暗号化
– アクセス権限の厳密な管理
– セキュアな保管場所の確保
解説:
基幹系データベースは業務継続性が重要なため、バックアップ取得中も業務を継続できる仕組みが必要です。また、障害時の影響が大きいため、迅速な復旧が求められます。同時に、機密データを扱うため、セキュリティ面での配慮も重要です。試験では、これらの要素を総合的に考慮した設計能力が問われます。
まとめ
バックアップシステムは、企業の事業継続性を支える重要な基盤です。
基本情報技術者試験では、以下の観点からの理解が求められます。
- バックアップの種類と特徴
- システム構成の考え方
- RPO/RTOの概念
- バックアップサイトの選択
- バックアップ媒体の特性
実務では、これらの知識を基に、システムの重要度や要件に応じた適切なバックアップ設計を行うことが求められます。
本記事で解説した内容を十分に理解し、以下のポイントを押さえておくことで、試験対策に活用できます。
- バックアップ方式の選択基準
- システム要件とコストのバランス
- 災害対策の考え方
- セキュリティ要件への対応
- 運用管理の重要性
基本情報技術者試験では、これらの知識を組み合わせた総合的な問題が出題されることが多いため、個々の要素の理解だけでなく、それらを組み合わせた実践的な判断力を養うことが重要です。